東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15315号 判決
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〔判決理由〕一 原告の傷害
<証拠>と鑑定の結果、証人兼鑑定人桑原昭、原告本人の各供述によれば、次のとおり認められる。
原告は、事故時三〇才で、事故前概ね健康であつた。
加害車はブレーキ故障のため相当の速度で被害車に衝突したものである。(したがつて、原告の蒙つた衝撃はかなり強度のものと推認できる。)
原告は、事故後数分間意識不明であつたが、ほどなく、クリニックにおいて医師桑原昭に受診した。当時、顔面蒼白、頻脈、激しい頭痛、吐気、頸部周辺の激痛、右上肢知覚鈍麻等の症状がみられ、頸椎捻挫(むちうち症)、右頭部、前胸部、上腹部打撲症と診断された(頭部外傷に基く脳症状は認められなかつた。)。数日間で全身状態等はかなり好転し、その後徐々に症状は軽快し、頭重、右肩こり、右上肢の脱力感、右手指のシビレ感のほか食欲不振、全身倦怠、不眠等の神経症的症状がなお残存する状態で退院した。その後、ほとんど連日、クリニックに通院して低周波、注射、投薬の治療を受け、昭和四三年一一、一二月頃にはほとんど治癒したものとして一応治療は打切られた。ところが、昭和四四年四、五月頃右退院時のような症状が再発増悪し、注射等の治療をしたが、前記医師は主症状を神経症的愁訴とみて、神経科受診をすすめ、同年九月以降東京女子医科大学病院に受診し、うつ病と診断されている(しかし、鑑定結果に徴し、これを外傷性神経症とみるのが相当である。)。
そして、現在なお、右上肢、右肩、右頸部の重い感じ、右上肢外側のシビレ感、右手の運動(ことに手先の器用な動作)の不自由感等の自覚症状があり、他覚的に筋電図等にもあらわれており、そのほか、全身倦怠感、行動抑制感、頭重感、入眠不良感、焦燥感、音響過敏等の神経症が存する。そして、今後長期間右上肢の細かい器用さを要求される仕事や接続的な筋力を要する仕事は困難である(自賠法施行令第一二級該当)。神経症については、原告の性格的素因に加えて、事故による生活への脅威将来への不安等が加わつて、惹起されたものであつて、本件解決によりかなり改善をみるものと推認することができる。
二 原告の職業等と事故後の状態
<各証拠>により次のとおり認めることができる。
原告は、昭和四二年四月桑原昭(クリニック院長、原告の妻の弟)から渋谷区宇田川町の家屋を、原告がクリニック従業員三〇名に対し昼、夕食を実費提供することを条件として、賃料月三万円で賃借し、当初は大衆食堂を、同年一一月からは割烹料理店「桑苑」を開業して、事故時に至つた。同店には事故前、原告、その妻登喜子(経理担当)、板前(調理師)一名、下働き一名、仲居(時間雇い)二ないし一〇名が稼働していた。原告は、調理師の資格は有しないが、昭和三三年から東横百貨店食堂のコックをしており、同店全般の管理のほか、仕入、調理、仕出しの配達(自動車運転)やその他の雑用を処理してきた。昭和四二年一一、一二月には、同店はそれぞれ三〇万円を下らない純益を挙げている。原告は、前記給食サービスを事故に至るまで実費月額一〇万円で行つてきた。
原告は、事故後、一時は、右料理店の廃業をも考え、昭和四三年一月一日から営業を中止したが、同年六月一四日に至り営業を再開した。
前記の給食サービスも事故後中止され、クリニック側では三、四名の炊事婦を雇入れ、右人件費を含めて月額一八万円位の支出をして従業員らに対する給食を自ら行つている。一方、原告としては、その配達に当つていた原告に代えて運転手を雇い入れて右給食を実施したのでは採算がとれない等と考えた。結局、右給食は継続しないこととなり、原告と桑原昭の合意で昭和四三年六月以降右家屋の賃料は月二〇万円と定められた。右賃料額は太陽銀行の査定等からみて時価を超えないものと思われる。
(被告が昭和四三年一月ないし三月の人件費を原告に支払つたことは当事者間に争のない事実であるが、この事実だけでは、なお、右に述べた同期間割烹料理店「桑苑」が休業したとの認定を左右することはできない。)<中略>
三 損害
(一) 治療費<略>
(二) 休業損害 一六三万円
原告は、前記のとおり事故後昭和四三年一月一日から同年六月一三日まで右料理店を休業したが、前記の昭和四二年一一、一二月の純益からみて、もし、同店の営業を継続していた場合月平均三〇万円(これを超える点について証拠がない。)を下らない収益を得ることができたものと推認するのが相当である。原告の前記症状、入院期間及び退院後の治療経過と一方開業以来の経緯と原告の地位等からみて、(開店間もない割烹料理店において経営者兼板前が入院等した場合に従業員である板前において自ら管理し、料理店の経営を維持していくことは通常期待し難いところである。)右休業は原告の受傷の結果、やむを得ないものとみるのが相当である。よつて、右休業期間、毎月三〇万円の割合による金員は、休業による得べかりし利益の喪失と考える。<(三)、(四)略>
(五) 店舗再開に伴う宣伝費用
六万一〇〇〇円
<証拠>によれば、前記店舗再開に対し、原告主張のような出費をしたことが認められる。
既に述べた右営業の種類、休業期間等からみて、右程度の宣伝通知費用は、店舗再開に必要な出費、したがつて事故と相当因果関係のある損害とみるのが相当である。 (高山晨)